今年のプリキュアシリーズ最新作である『キラキラ☆プリキュアアラモード』は放送当初からかなり面白いと思って楽しく見ていたが、先日(7月30日)放送された第25話 「電撃結婚!?プリンセスゆかり!」はひときわ優れた回だったと思う。
脚本は『プリティーリズム・レインボーライブ』などで知られる坪田文。
演出は古くは『セーラームーン』シリーズから演出を手がける佐々木憲世。
まさかいい年をしてプリキュアを見ていない成人諸君がいるわけがないとは思うが(失礼)、一応見ていない人のために簡単に説明すると、今年のプリキュアは5人組(+追加戦士1人)で、モチーフはスイーツと動物。
メンバー5人のうち3人が中学生、2人が高校生となっている。今回の話ではその高校生2人が主役。
右端のキャラが「剣城あきら/キュアショコラ」で、左端が「琴爪ゆかり/キュアマカロン」。
あきらはボーイッシュな女の子で、よく男子に間違われる。家族や仲間思いの性格だが、反面自己主張が弱い。
ゆかりは超然とした美女で、何事も完璧にこなしてしまう天才肌。どんなこともたやすく習得してしまうため感情的になることがほとんどなく、他人と接するときも猫のように気まぐれな性格。しかし心の内では繊細な精神性を持つ。
2人はもともと知り合いだったが特に深い付き合いがあるわけではなかった。しかし第10話で絆を深めることとなる(このエピソードも必見)。
これだけ理解しておけば今回の話では概ね問題ない。
さて、今回は「コンフェイト公国の王子」がゆかりの元にやってきてプロポーズをするところから話が始まる。
まずこの王子、キャラクターデザインも演技も完全に世界観から浮いている。
この後ゆかりを巡ってあきらと対決をすることになるのだが、何をしてもズレたギャグ描写となっている。
しかし今回の話でまず目を見開くのは、そうしたコミカルな要素を置き去りにした"抑えられた"演出である。
恋したゆかりを国へ連れ去ろうとする王子から、ゆかりを引き止めるあきら。
このあきらの行動にゆかりは初めは笑みを見せるも、あくまで客観的な理由しか述べないあきらに対して途端に表情を曇らせる。
あきらの態度に不満なゆかりは、あきらが王子との対決に勝てなければ彼の国へついて行くと挑発的な態度を取る。
画像だけではどうしても伝わらないと思うが、ここまでの映像では劇伴もカットも非常に動きが抑えられており、きわめて上品な画面づくりがなされている。
これだけでも「今週のプリキュアは何かすごいぞ」と予感させられてしまう。続けて見ていこう。
その後王子とあきらは100m走や力比べや歌唱での勝負を行うのだが、ことごとく王子はルールを逸脱したプレーを行い対決は有耶無耶となってしまう。こうした状況にあきらは困惑しつつも成り行きにまかせる一方、ゆかりは楽しげな表情を見せる。
ここで今回の見所のひとつ、ゆかりとあきらのダンスシーンがやってくる。
ここはぜひアニメで見てほしい。
あきらとゆかりは一言も言葉を交わさないが、2人の表情とダンスから彼女たちが心を通わせていることは一目瞭然である。演出とはかくあるべし、とまで言えるような珠玉のアニメーションである。
この直後に王子が乱入して無理やりゆかりにダンス技であるリフトを行おうとするも、バランスを崩して王子だけがプールに落ちてしまう。そこで「実はお嬢様」という設定をもつあおいがピシャリと一言。
一連の出来事に耐えかねたあきらは、面白半分に王子たちを振り回すゆかりを責める。
言動はズレているが気持ちは一生懸命な王子のことを尊重すべきだ――と言うあきらに対して、ゆかりは反発するように「コンフェイト公国に行く」と突き放し、次のように言う。
震撼すべき台詞である。とらえどころのないキャラクターのゆかりが放ったこの一言は、飛躍した台詞でありながら紛れもなく彼女の本心を捉えた言葉であることが直感的に理解できる。そしてこの言葉の本当の意味は後に明らかになる。
ここでCMを挟んでBパートに移る。
あきらは追加戦士であるシエル/キュアパルフェから、ゆかりのわがままについて直接的に言葉を伝えるべきだと責められる。(余談だが、こうした立ち位置が無理なく成立できるところは追加戦士というキャラクターの良いところであり、キャラクター配置の妙と言える)
それに対してあきらは次のように答える。
震撼すべき台詞その2である。猫のようにとらえにくいゆかりの精神性の最も核心の部分を、あきらは自然と理解しているという2人の絆の深さにハッとさせられてしまう。しかも言うまでもなく、紫の花の折り紙はそううした脆さを持つゆかりを象徴しているという憎い演出にうなされる。しかもこの台詞は同時に積極性に欠けるあきらの性格をも反映しているという重層的な意味。これこそがまさしく"表現"というものだろう。
この直後のシエルの言葉もきわめて強いメッセージ性があり、心を揺さぶられる。
ギクシャクしてしまったあきらとゆかりだが、いちかの提案で2人でスイーツづくりをすることになり、その作業の中で2人の間の緊張もほぐれていく。
これは今回と同じ坪田文脚本である『プリティーリズム・レインボーライブ』でも常々感じていたところだが、キャラクターが物語の最も根本的なモチーフであるスイーツ作りという営みを通して、心と心の交流や精神的な成長を描くという手法は最も感動的な作劇方法であると思う。
その後、2人きりになった際にゆかりはあきらへ本心を打ち明ける。長くなるが画像で引用する。
もはやこのシーンについてはどう賞賛しても無粋にしかならないだろう。
キャラクターのもつ精神性と関係性を、それまでのエピソードを踏まえて一つの頂点にまで高められる、そんなレベルの作品はなかなか見られるものではない。
そしてお約束の戦闘シーンにおいて物語は最高潮を迎える。(ちなみに敵は百合の花のモンスターで、やりすぎである)
変身用のコンパクトを封じられたゆかりをかばって敵の攻撃を受けるあきら。
なぜ他人をそうまでして守るのかという問いに対して。
まさかの愛の告白である。
こんなのありえるだろうか?これは日曜朝08:30に放送しているアニメなんだが…?
思わず取り乱してしまった。
シエルの言葉を踏まえていること、また、自分の気持ちを後回しにしがちなあきらというキャラクターの素直な感情の発露だからこそ持つ言葉の重み。そして「ここまでやってくれるのか!」という驚き。万雷の拍手を送りたいと思う。
この後のあきらがゆかりの涙を拭くシーンもきわめて白眉な演出がなされている。
あきらがゆかりの涙を拭くジェスチャーをしたときは確かにゆかりは泣いていない。しかしその動作の直後にゆかりは涙を溢れさせる。
たとえ涙は流していなくとも、あきらにはゆかりが心の中で泣いていることがわかったのである。そしてゆかりはあきらによってそれを自覚し、安堵の涙を流すのである。2人の果てしなく深い絆がこのシーンで表現されつくされている。
一体どんな天才ならこのような演出が思いつくのだろうか?
コンパクトを取りもどしたゆかりはプリキュアへ変身し、あきらとの合体必殺技によって敵を倒す。
もちろんこのシーンは「信頼しあっているパートナーでなければできない」というあおいの言葉を踏まえてのものである。何度も言うようだが徹底的に演出が練られている。
さて、長くなったが今回の話もこれで最後となる。
物語の終わりにゆかりは王子のプロポーズを断り、別れを告げる。
自身でも見つけることが難しい自分の心。
しかしそれを見つけるときがゆかりにもやってくるのかもしれない。
なにせプリキュアアラモードはまだ20話以上先があるのだから。
そんな今後の展開の期待をも含めた素晴らしい〆となったように思う。
いかがだったでしょうか。
長くなってしまいましたが、少しでも今作のプリキュアの魅力を伝えることができたなら本望です。
これをきっかけに興味を持ってくださった方はぜひ来週から僕と一緒にプリキュアを観ましょう!
終