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映画『リビング ザ ゲーム』感想:今だからこそ振り返る格ゲーeスポーツシーンの過渡期

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映画『リビング ザ ゲーム』を見た。
本作はウメハラ、ももちといった格闘ゲームのプロプレイヤーを2年間にわたって取材したドキュメンタリー映画だ。
2016年に製作され、一度 WOWOW にて「格闘ゲームに生きる」の表題で放送されたことがあるのだが、有料CSのため視聴のハードルが高くTwitterのTLでもほとんど視聴した人を見かけなかった覚えがある。
僕も当時見られなかったので、今回の劇場公開はとても楽しみだったし、満足いくものだった。
 
内容としては、2014年から2015年にかけてのストリートファイターのプロシーンを舞台に、ウメハラとももちを中心に、ジャスティン、ルフィ、ゲーマービーといった各国の格闘ゲームプロの現実をフィルムに収めている。
2014年から2015年というと、ストリートファイターは「ウルトラストリートファイターIV」にアップデートされ、ストIVの競技レベルが成熟期にあった時代だ。
参考までにこの年のEVOとカプコンカップの優勝者を記載する。
 
2014 EVO
優勝:Luffy、準優勝:ボンちゃん
2014 Capcom Cup
優勝:ももち、準優勝:Xian
2015 EVO
優勝:ももち、準優勝:GamerBee
2015 Capcom Cup
優勝:かずのこ、準優勝:ウメハラ
 
初のヨーロッパ勢の優勝、ももちの二冠、ゲマビとの決勝のコントローラートラブル、かずのこの1500万二翔などが思い出深い。
 
見る前は「いまさらウル4かよ~」と正直思っていたが、実のところ今だからこそこの時代を振り返ることで印象深い映像となっていたと思う。
というのも、この時期はまだ格闘ゲームが所謂「eスポーツ」として現在のように世間的に華々しく注目される前のことであり 、作品全体も先行きの不透明さに葛藤するプロゲーマー達の生き様にフォーカスをあてている。
ゲームに没頭すると社会的に生きづらくなる現実への諦観を吐露するルフィやゲーマービーの表情は痛いほど共感できるものだった。
また、当時より現在は賞金額は一桁大きくなり、賞金額の大きさがeスポーツシーンの拡大として喧伝されることが多い現状から見ると、劇中のジャスティンの発言は皮肉的だ。「ダイゴは才能があるから、稼ぐならアメリカに来るべきだ。アメリカでは賞金のために戦う。でも、日本の選手はプライドのために戦うんだよ」
 
特に、ももちはウメハラという絶対的カリスマとの間にプロとしての格差を感じ苦悩する姿が克明に映されており、今作の主役であると言ってよい。
劇中ではStunfestやトパンガワールドリーグでのウメハラとの直接対決に負けて壁を感じたり、ウメハラの著書を読みたがらないシーンにウメハラに対抗しようとするももちのバチバチ感が表れており、見ごたえがある。
前述のようにももちはEVOとカプコンカップを二冠したが、劇中では明るい表情をほとんど見せない。それはウメハラとの差を埋められていないことや、追われる立場になったことの怖れによるものだ。
一方でウメハラ本人は(いつのものように)飄々とした自然体でインタビューに答えている。ももちに対しても、自分が過去絶頂を極めた頃と照らし合わせて、先を行っている者としての立場で焦るももちの姿を見つめている。
僕が鑑賞した回は上映後ウメハラをゲストにトークショーがあったのだが、「登りつめたところから落ちていく辛さは、最初から勝てないよりも辛い。それでも継続してきたことが、自分がプロとして評価されているところだと思う」と述べており、印象深かった。
 
本作の見どころや意義は、こうした格闘ゲームのeスポーツシーンの過渡期を、選手たちの人生に寄り添う形で映像に記録しているところが大きく価値があるものだと思う。
ちなみに格ゲーファンとしての目線では、ジャスティンやゲーマービーの生い立ち・苦労人話が泣ける。これもぜひ見てほしい。