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アニメとゲームのことを書きます

格闘ゲームにおけるバランス調整の現在と未来

先日DNF Duelのバランス調整内容が発表された。
これを見た格闘ゲーマー諸氏のTwitterでの反応は概ね不満気であった。
一強キャラであったスイフトマスターの弱体化については誰もが予想していたと思うが、

  • 4キャラしか変更点がなく、さらにそのうち3キャラは1箇所のみの変更
  • 変更点がすべて弱体化
  • Tierの低いキャラの強化点がない
  • 開発がゲームを盛り上げていくつもりなのかわからない

といった点が不満として挙がっていた。

 

DNF Duelは発売からまだ2ヶ月だがプレイヤー人口は急激に減少している。
Steam Chartsによると直近30日の同時接続人数はピーク時で774人であり、これは遥かに旧作のP4U2の753人と同レベルしかない。※8月30日時点
皆さんの知り合いの中に(スイフトマスター使い以外で)このゲームを続けている人はどれだけいるだろうか。
ほとんどは自分が元々メインに遊んでいたゲームに帰っているのではないかと思う。
今回の調整内容を見て、他のプレイヤーの復帰を期待していた人・自分が復帰するか検討していた人は失望しているのではないだろうか。

 

 

この記事はDNF Duelをdisるために書いているわけではない。
ただ、DNF Duelをめぐる状況は現在の格闘ゲーム環境をよく反映しているように思う。
つまり、格闘ゲームにおいてバランス調整はどういった意味があるのか、そしてそれをプレイヤーがどのように受け入れているかということだ。
この記事でそれをいちプレイヤーとして考察してみたい。

 

■バランス調整の意味

後の議論のために、まず格闘ゲームのバランス調整は何のために行われるのかを考えよう。
ここでは3つの目的を挙げる。*1

 

1. ゲームを面白くするため

バランス調整の目的の一つは、ゲームをより面白くエキサイティングにすることだ。
例えば技の強化や新技追加によって新しくできることを増やしていくことでゲームは面白くなっていく。

 

2. ゲームを健全化するため

二つ目の目的はゲームをあるべき姿に正すことだ。
具体的には、強すぎるキャラや技を弱体化すること、あるいは単に不具合修正があてはまる。

 

3. プレイヤーを増やすため

三つ目の目的は、より多くの人々にそのゲームを遊んでもらうことだ。
これは1と2を通じて達成することを目指す。

 

■バランス調整の事例

次に、近年のゲームはバランス調整をどのように行っているか実際の事例を確認しよう。
※以下では不具合調整のみのアップデートは考慮しない。

 

▼GGST

2021/6/26 発売
→8/27 調整1回目(発売から2ヶ月)
→10/15 調整2回目(前回から1.5ヶ月)

1回目の調整は技単位のピンポイントな変更で、強化も弱体化も含まれる。
2回目は共通システムや飛び道具・中段の変更など大きめのアップデートとなっている。

 

▼MBTL

2021/9/30 発売
→11/12 調整1回目(発売から1.5ヶ月)
→1/13 調整2回目(前回から2ヶ月)

2回とも「長所として設定していたが不十分だった点や、短所として設定していたが弱すぎた点」の変更で、弱体化なし微強化のみの調整。


▼KOF15

2022/2/17 発売
→3/17 調整1回目(発売から1ヶ月)
→5/17 調整2回目(前回から2ヶ月)

1回目の調整はほとんどが不具合修正だがウィップが強化されている。
2回目はラルフをはじめ多数のキャラクターが調整されている大規模なアップデート。

 

いずれも3~3.5ヶ月以内に2回のバランス調整が入っている。一昔前からすると驚くようなペースだ。
また、KOFの主要なバランス調整は発売から3ヶ月目にあたると言えるが、当時はすでにヴァネッサ・ラルフ・テリーのチームが評価を確立しており、調整がまだかまだかと待たれている状況だった。
このことから、現代の格闘ゲームでは「発売から2ヶ月ほどでバランス調整を入れる」というのが一つの基準になるのではないかと言えそうだ。

 

また、ここまで述べたことから、今回のDNF Duelのアップデートの問題点が浮き彫りになったのではないだろうか。つまり、

  • ゲームの健全化は行ったが、面白くはならなかった。結果として人が戻ってこなかった。
  • 発売から2ヶ月のタイミングではあるものの、その割に小規模なアップデートだった。

 

■プレイヤーがバランス調整に期待すること

こうしたバランス調整の状況をプレイヤーはどう受け入れているのだろうか。
バランス調整が入ると聞いたときにプレイヤーが期待するのは、基本的に次の3点だろう。

1. 自キャラの強化
2. 強キャラの弱体化
3. 人口の増加

これらはバランス調整の目的として挙げた3点にそのまま対応している。
一般的にナーフ調整が嫌われるのは1,3が満たされないことが原因と言えるだろう。
やはり理想的なバランス調整とは、

1. どのキャラクターにも強化や新要素を与えてゲームの面白さを伸ばし、
2. 強すぎるキャラ・技を弱体化してゲームを健全化し、
3. 新しく始めるユーザー・復帰するユーザーが増える

ように行われるべきだ。(改まって言うほどのことでもないかもしれないが)

 

さて、ここで冒頭に挙げたプレイヤーの不満の声に「開発がゲームを盛り上げていくつもりなのかわからない」という意見があったことに着目したい。
これは現代の格闘ゲームにおいてプレイヤーが調整に期待していることがもう一つあることを示唆していると筆者は考えている。
それはつまり、

4. 開発とのコミュニケーション

だ。
例えば「調整内容だけじゃなく意図も説明してほしい」という意見が上がることは過去たびたびあった。
その声の裏にある心理は(弱体化調整の溜飲を下げるためという場合もあるだろうが)、開発が何を考えているのか、開発と自分の価値観がずれていないかを知りたいという気持ちが大きいのではないだろうか。
プレイヤーがSNS上で調整方針に意見する運動が所謂「政治」と言われ認知されるようになったのも、バランス調整を通して自分の意見が開発に影響を与えていることをプレイヤー自身が理解しているからだ。
つまり、バランス調整が発表される場は今や開発とプレイヤーの意思疎通の機会としても機能し始めている。*2

 

格闘ゲームにおけるバランス調整の未来

これは予想だが、これからの格闘ゲームは「バランス調整を通じた開発とプレイヤーのコミュニケーション」が加速していくのではないだろうか。
その根拠は3つ考えられる。

 

1. 現代はゲームの消費スピードが速い

プレイヤーに飽きられる前にアップデートで変化を与えるとともに、ゲームの運営に前向きな姿勢を開発が見せていくことが求められる。

 

2. SNSが普及してプレイヤーの声が大きくなった

プレイヤーが感じている不満がよりはっきりと開発に見えるようになった。
また、周囲のプレイヤーの声に影響されてゲームを始めるもしくは辞める人が多くなりゲーム人口に影響を与えるようになった。

 

3. 格ゲーはキャラ替えが難しいため弱体化調整に敏感である

弱体化調整は一般プレイヤーのみならずプロプレイヤーにとっても死活問題であり、eスポーツシーンへの影響込みで弱体化調整のリスクが重く評価される。

 

結果として、開発とプレイヤーの関係はより密になり、特にバランス調整が担うコミュニケーションの役割が重要になってくる
近い将来の格闘ゲームでは月に1回あるいはそれ以上の頻度で(代わりに規模を抑えた)バランス調整が頻繁に行われるようになっているかもしれない。

 

■おわりに

今回はDNF Duelのバランス調整を見て思ったことから格闘ゲームの調整の未来まで話を広げて考察してみた。
筆者の主観を中心とした文章であり異論もあるかと思う。その場合は何でもコメントしてほしい。

*1:

参考動画:

Analysis: Why We Should Buff More Than Nerf - YouTube

【格ゲー】人口が減るような弱体調整はなんのため? - YouTube

*2:補足だが、定期的なアップデートが約束されている現代格ゲーにおいては自分の持ちキャラが一時的に強キャラであっても次のアップデートで致命的な弱体化を受ける可能性があるため、お咎めを受けづらいようなキャラ選びをするために開発方針を知りたがるプレイヤーもいることに言及しておく。